まばたき

振り返れば

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そして、、新しい年を迎え、早春と呼ぶにはあまりにも寒いある日、
私は職員室へ呼ばれたのでした。呼ばれた理由はわかっていた。
私のこれからの事。
私は、自分自身、きっと卒業はできないという事はわかってはいたのです。
そしてもし、もう一年、、留年という事になれば、高校をやめようとも
思っていました。木枯らしの吹く、寒い日でした。
私は曇りガラスの向こうの空をぼーっと眺めながら、
担任の先生のくるのを待っていました。
名前のわからない鳥が一羽、、鉛色の空を横切っていきました。
扉があいて先生が入ってきました。

先生:悪い、悪い、待たせたな、、。
私:いえ、、、、、、。
先生:今日はなんの話しかわかってるか?
私:はい、、、、、。
先生:そうか、、なら、話しは早い、、お前、就職する気はないか?
私:就職?
先生:そうだ。
私:どこにですか?
先生:いや、、おかあさんとも話したんだがな、俺の知り合いが
 ここにいてな、、、フォークリフトの運転手を求めているんだ。
 今のお前の状態だとうちの高校では、お前を卒業させる
 事ができないんだ。でも、、お前がここに就職するのなら
 話しは別なんだ。この意味、わかるか?
私:、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、。

意味はわかっていた。
でもその時の私にそれは、とびあがる程うれしい
事ではなく、なぜか"取引"のようにも思えた。
先生が見せてくれた写真付きの小冊子は
なんとか製紙という会社の会社案内のようなものだった。
先生はそれから、その会社の内容や、初任給、私が就職したとしたらの
仕事の内容、そして、、私の高校生活における先生の所見を
懇切丁寧に話してくれた。

先生:どうだ、、悪い話しじゃないと思う。
私:、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、。

他の友人達はもう、すべて進路がきまっていて
あとは卒業式をまつばかりだった。
ある人は大学へ、ある人は専門学校へ、
そしてある人は予備校へ、そしてある人は
就職が決まっていた。

先生:あまり、、おかあさんに心配をかけるな。
私:、、、、、、、、、、、、、、、、、、、。
先生:どうだ?
私:少し、時間をくれませんか?
先生:?
私:考える時間が欲しいんです。
先生:なにを?
私:自分が本当はなにをしたいのか? 何になりたいのか、、、。
先生:、、、留年してもう一年頑張る気持ちはあるのか?
私:わかりません、、、。でも今、、ここに就職はできません。
先生:なぜだ?
私:フォークリフトの運転手になりたいというのではないって
    いうのはわかるんです。せっかく先生がこういってくれるのは
    ありがたいんですけど、、なんか違うんです。
先生:、、、そうか、、、、、
私:先生、、、俺、、、
先生:なんだ?
私:俳優になりたいんです。
先生:?  ? はっ  ?
私: 俳優です。あれって、、どうやったらなれるんですか?
先生:、、はい、、ゆう、、?
私:はい。
先生:お前、、なに、ばかな事いってんだ?

緊迫していた空気は一気に崩れた。
突拍子もない言葉が私の口から出た瞬間だった。
そしてそれはあきらかに、少しのなごみを与えた瞬間、
冷ややかな、、どうすればいいの?的な空気に変わっていった。
私はこの時の先生の顔を今でも憶えている。
振り返れば、私はこんな事ばかりなのだ。
自分にとっては大切な瞬間なのに、
なぜか相手にはなんにも伝わっていない事が多い。

先生:う〜〜ん、、、おかあさんはお前の気持ち知ってるのか?
私:いえ、、、
先生:お前、本気なのか?
私:はい

本気ではなかったのかもしれない。
でも嘘ではなかった。
本気でなにかをしたかった。
でもとんでもないのは、、私は演劇が好きだったわけではなかったのだ。
その世界の事なんてなんにも知らなかったのだ。
それなのにそんな事を言ったのだ。

、、、、、、、、続く、、、、、、、、、、。
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by mabatakishot | 2007-09-08 03:06 | on the road